踊らされるma・yu・ge

ある程度歳を重ねると、人は誰しも悩み事を抱える。


色々考えて、悩んで、後悔して、うじうじしても解決しないどころか、余計悪化したりする時間がある。


それが、夜。


夜ってーのは怖いもんで、ちっぽけな悩みが人生を左右するもんに見えたり、

くだらないことに腹抱えて笑って涙流したり、

とにかく夜は怖い。


朝起きたときに100あった理性は、夜になると5くらいまで減ってんじゃないかなー


んで、寝るとリセット。


一夏の過ちって十中八九、夜起こってるわけ。


朝一とかあんま聞かない。


朝はどっちかってーと「あ、あたしったら一体全体…!?」


とにかく、夜は怖い。


あろうことかそんな夜に、私は人生初の所業を試みたのです。


花も恥じらう中学生、夜鏡を見てふと思った、「眉毛、太い、な」


それまでは自己愛の塊で、ぱっちり二重のお目目がベリーキュートとか思ってたのよ、鏡見るときって大抵目を見るじゃん。

だから自分ってすげー可愛いじゃんって。


かーちゃんもばーちゃんも、みんな可愛いって言ってくれるし。


でも周りのオマセな女の子たちがさ、段々眉毛が気になりだしたんだろうね、次々トランスフォーマーしていくわけ。


んで、あれ…?眉毛って…あれ?そういうことする場所なんだ…?

なんて自我が芽生えてきた。


そんで夜、すんげー夜。


鏡を覗いたらさ、モサっとした母親譲りの眉毛が鎮座してる。可愛い目の上に。


もうね、可愛くないの。


鏡の中に眉毛が見えると、途端に可愛くない。


そこからの仕事は速かった。初めてとは思えないぐらいのチャレンジ精神でグイグイ攻めた。


いじるっていうかもはや荒地、カウボーイハットかぶったおじさんが早撃ちし始めてもおかしくないほど乾いた大地。


でも至近距離の鏡は不思議なもので、

とても可愛く見えたし、大成功だと確信して眠りについた。


翌朝、お母さんにめちゃくちゃ怒られた。


あーもうあたしったら一体全体…っ!!


でも後の祭り。すっかり焼け野原。


「自分の顔を鏡で見なさい」と首根っこ掴まれて洗面所に連行され、鏡に映った母と娘、

真っ赤に泣き腫らしたまぶたと眉毛のないブサイクを見て母親は「ほら見なさいあんたブーーッ」て吹き出した。


なんで笑うのーーーなんて言いながら私も内心ブッサイクだなーて思って笑った。


眉毛には流行があって、太かったり、細かったり、下がったり、上がったり。

それこそ千年以上も前から剃るわ抜くわの大活躍、そんな眉毛。


……最近、自分の眉毛が気になるぅ。


こんな狭い敷地内で、どうしてそっちへ流れるのか、なんでそこにも生えちゃったのか、もっとこう左の眉毛に習って生えればいいのに。


あ、そっちの眉毛は右へ習え。


角度は何度で、目と平行もあり?薄すぎか、これは濃すぎか、目と離れすぎー…でも上は剃っちゃだめって言っちゃう?


もう…もうっ…!


でも一番気にしないといけないのは眉間の毛だよね。

気づいたら架け橋かかってっから。

ベルになれなかった女

脱毛も、はや4回。


プロの域になりつつある。


される側の心得っつーか、

説明も「あー、はい、それね」なんて髪かきあげてニッコリ微笑んで余裕で聞き流してる。

全然平気。


股とかもう、恥ずかしくない。

剃り残しを見られても「ごめんねー」って軽い感じで受け止められてる。

私いい感じ。


股の毛を脱毛するのってかなり痛いんだけど、

でもこの前のお姉さんは冷やしてくれたなー


そしたら感覚が麻痺して痛くないったら。

ともすれば、寝ちゃってたりしてさ〜すごくない?


じゃぁ最初の方の痛みはなんだったっつー…


通過儀礼


そんな感じで、脇のくすぐったさも慣れてきた。


でもなぁ…


ひげ、薄くならないんだけど。

つーか衰える気配なし。

あたし、一応女です。


そんな感じで6ヶ月を過ごした。


6ヶ月って1年の半分だし。

そりゃ色々ある。


そりゃぁね、野獣も浮気する。


女の勘とかなんとか言いますけどね、

それはもうみごとな女の勘。

銭形警部とかもう真っ青。


会ってはないけど、メールだけだけど、

なんつって言い訳して

おめー、そいつと寝てんじゃねーか。


その余った皮を輪切りにしてオニオンフライ作ってやろうかと。

サイズ的にはポテコより小さいけど。


なんか、もうさ、プライドってこんなとこにあったんだ?

29年間どこ行ってたんだ?

ってぐらいちっぽけなプライドがガラガラと音を立てて崩れた。


ちくしょう…

綺麗になってやる


なぜかふつふつと湧き上がる闘争心。

上昇思想?

志向?


今に見てろ野獣。

私は美女だと気づかせてやる!

あたい、ベルになる。


ところで美女と野獣の実写映画化、

とても楽しみだなぁ…

脱毛と野獣

小さい頃から、食い入るように見てた美女と野獣の映画。


私もいつか野獣と出会ったらきちんと愛そうと常々心構えだけはしてたけど、

なかなか出会えずに大人になってくると「でもその野獣は絶対に王子様じゃなきゃだめ、ただの野獣じゃ愛を語るのはちょっと…野獣を愛せるってやっぱ普通じゃないっつーか性癖の範疇じゃないんですかね…?」


私はもう大人。気付けばガストン側。

美女になれなかった自分は、棚の上へ。


29歳ガケップチ。

明菜、あんたまだいけるって。

こちとら三十路まであと一歩。


何が変わるかっていうと、きっと何も変わらない。少しシワが増えて、体力が落ちて、きっとそれだけ。


今だって夜更かしはもう出来ないし、油っぽいものは無理だし、来年何が変わるかっていうと、そんなに変わらないと思うんだ。


……と思ったけど、ひとつ変わることがある。


なんか最近ネット見てると広告がすっごいの。脱毛の。

正直うっとうしくて、次のページ行こうとするといきなり出てきた広告に指持ってかれちゃって脱毛サイトに飛ばされたりして、

何度も飛ばされるもんだから広告も広告で「こいつ気があるな」って勘違いしちゃって、下手したら1つのページに3個とか同じ広告があったりする。ばーか


でも私も単純で…なんども言われると、好きじゃないのにちょっと気になるっつーか…

他の人が悪口言ってたら「あれであいつも結構いいとこあるからね〜」なんてフォローしちゃったりしてる。あぁもうあいつの思う壷じゃんっ!


気付いたら予約してた。

なんだかなーと思いながら、お店に行った。

ていうか綺麗なお姉さんの腕を触って「すごーいスベスベ!」なんて笑って、で契約してた。

恋って不思議。


初めての脱毛。

手渡される紙パンツ。

こんな、こんなパンツが何を隠してくれるんだっつーの。

面積小さい、細長い、ここがあのチリ共和国

パンツの中もチリ、どっちかというとチリチリですけど。


いや、なんかさ、29年の人生で薄々感じてたんだけど、私って結構下の毛が過保護…だよなぁ…

銭湯行ってパンツ脱いで、阿波踊ってるこいつと、張り込み中の刑事かってぐらいじっと佇む友人のそいつを見て思わず聞いたもんね。

「そいつ、パンツから出ることある?」

したらさー、ないってさー。

どんなタイミングで、どんな速さで履いても、ないってさー。

え、まじかよーって驚きとはみ出しを隠せない私。


そんなことを思い出しながら仰向けに寝転んで、紙パンツを履いた私をこんな可愛い子が見るのかーと思うと、ちょっと複雑…

でも向こうは流石プロ、ガバッとタオルめくって剃り残しをジーって華麗に剃ってくれた。

私の照れ笑いも意に介せず、サクサク進めてくれる。


脱毛中は目隠しされるんだよね…

脇とかもう、すげーくすぐったかった。

「んふふ、我慢してくださいね」ってお姉さんの声がするのよ。

恥ずかしさと、目隠しと、痛みで、私的にもう役満

ありがとう。

帰り際のお姉さんの笑顔、輝いて見えた。ちょっと好きになった。


お風呂に入る時、鏡の前でポージング。

うん、見た目すっきり。


来年…毛が薄くなってるよね。

果たしてこいつは気付くのかしらん、と思いながら、横で大口開けて眠る野獣の口を塞いだら、んごって言ってた。