脱毛と野獣
小さい頃から、食い入るように見てた美女と野獣の映画。
私もいつか野獣と出会ったらきちんと愛そうと常々心構えだけはしてたけど、
なかなか出会えずに大人になってくると「でもその野獣は絶対に王子様じゃなきゃだめ、ただの野獣じゃ愛を語るのはちょっと…野獣を愛せるってやっぱ普通じゃないっつーか性癖の範疇じゃないんですかね…?」
私はもう大人。気付けばガストン側。
美女になれなかった自分は、棚の上へ。
29歳ガケップチ。
明菜、あんたまだいけるって。
こちとら三十路まであと一歩。
何が変わるかっていうと、きっと何も変わらない。少しシワが増えて、体力が落ちて、きっとそれだけ。
今だって夜更かしはもう出来ないし、油っぽいものは無理だし、来年何が変わるかっていうと、そんなに変わらないと思うんだ。
……と思ったけど、ひとつ変わることがある。
なんか最近ネット見てると広告がすっごいの。脱毛の。
正直うっとうしくて、次のページ行こうとするといきなり出てきた広告に指持ってかれちゃって脱毛サイトに飛ばされたりして、
何度も飛ばされるもんだから広告も広告で「こいつ気があるな」って勘違いしちゃって、下手したら1つのページに3個とか同じ広告があったりする。ばーか
でも私も単純で…なんども言われると、好きじゃないのにちょっと気になるっつーか…
他の人が悪口言ってたら「あれであいつも結構いいとこあるからね〜」なんてフォローしちゃったりしてる。あぁもうあいつの思う壷じゃんっ!
気付いたら予約してた。
なんだかなーと思いながら、お店に行った。
ていうか綺麗なお姉さんの腕を触って「すごーいスベスベ!」なんて笑って、で契約してた。
恋って不思議。
初めての脱毛。
手渡される紙パンツ。
こんな、こんなパンツが何を隠してくれるんだっつーの。
面積小さい、細長い、ここがあのチリ共和国?
パンツの中もチリ、どっちかというとチリチリですけど。
いや、なんかさ、29年の人生で薄々感じてたんだけど、私って結構下の毛が過保護…だよなぁ…
銭湯行ってパンツ脱いで、阿波踊ってるこいつと、張り込み中の刑事かってぐらいじっと佇む友人のそいつを見て思わず聞いたもんね。
「そいつ、パンツから出ることある?」
したらさー、ないってさー。
どんなタイミングで、どんな速さで履いても、ないってさー。
え、まじかよーって驚きとはみ出しを隠せない私。
そんなことを思い出しながら仰向けに寝転んで、紙パンツを履いた私をこんな可愛い子が見るのかーと思うと、ちょっと複雑…
でも向こうは流石プロ、ガバッとタオルめくって剃り残しをジーって華麗に剃ってくれた。
私の照れ笑いも意に介せず、サクサク進めてくれる。
脱毛中は目隠しされるんだよね…
脇とかもう、すげーくすぐったかった。
「んふふ、我慢してくださいね」ってお姉さんの声がするのよ。
恥ずかしさと、目隠しと、痛みで、私的にもう役満。
ありがとう。
帰り際のお姉さんの笑顔、輝いて見えた。ちょっと好きになった。
お風呂に入る時、鏡の前でポージング。
うん、見た目すっきり。
来年…毛が薄くなってるよね。
果たしてこいつは気付くのかしらん、と思いながら、横で大口開けて眠る野獣の口を塞いだら、んごって言ってた。